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錦鯉の飼育

高密度で飼育する危険性

錦鯉を室内でもどこでも飼育できるようになったのは、魚類全般の生態の研究や飼育技術などが進み、高い能力の飼育設備などが開発されてきた成果に負うところが多い。
ただ、世界中を見渡してもこうした開発や研究の主眼となってきたのは、たとえばフグやヒラメなどのような食用の高級魚の大量・高密度養殖、その他、漁業資源保全のための種苗生産、稚魚育成のための大量飼育であったことはいうまでもないことだろう。こうした大量養殖、高密度育成における技術的な発展、研究の進展は、錦鯉の飼育のための装置や病気、害虫対策薬などにもさまざまな形で応用されている。装置の代表格は循環濾過装置をあげないわけにはいかないし、生態研究の成果は目的別のエサ、さまざまな傷病薬などがあげられる。
生態研究と養殖装置の関係でいうと、一例でいえば、養殖されたフグは水流の弱い水槽の中で高密度で飼育されるストレスからといわれるが、フグ同士が他のフグの尾やヒレをかじってしまい、一目で養殖フグと天然フグの違いが出て市場価格的にも極端に低い価格でしか流通されなかった。そこでフグ同士が接近するには少し厳しいくらいの水流を起こしてやり、フグが泳ぎ続けないと流されてしまうような装置が開発され、高密度でも互いに齧りあいなどしない状態で「肉質のしまった、魚体に傷のない」養殖フグが育ち、市場で天然ものと近い価格で流通できるようになったのである。
しかし、そうした飼育方法でも次の問題が出てくる。魚の成育や身のしまり、エサ食いの改善等も考慮して強い水流を起こす養殖水槽が開発されたわけだが、水槽と水との摩擦などによる騒音が魚にとってはストレスとなり、いわば健康被害が出てきたのである。こうしたことで開発されたのが円形や長方形ではなく蜂の巣のような、水が水槽の壁に当たって生じる騒音を相互干渉によって解消する設計の多角形水槽なども商品化されてきた。
また、高密度で飼育するため、使用する水(海水)についても雑物や雑菌、ウイルスなどの混入がないよう濾過・殺菌技術や装置が開発され、魚の排泄物や残餌などを処理する浄化濾過システムが進化し完全閉鎖式の循環システムも普通になっている。また、自然条件化での高密度飼育では各種の殺菌剤、薬品が開発され使用されてきた。
世界の著名な室内飼育(大量・高密度養殖)の魚類養殖工場などを視察すると、クリーンルームにほとんど臭いのない現場、澄みきった飼育水の中を大量の魚が泳ぐ光景に驚かされるだろう。まったく自然を感じさせない、文字通り徹底管理された工場である。
養殖工場などが水質管理など環境管理や外からの雑菌やウイルスの進入に神経を使ったりするのは、高密度・大量飼育が上記のように飼育されている魚類にストレスが生じて、さまざまな健康被害を引き起こす危険や、雑菌やウイルスが混入すれば飼育している魚全てに一気に感染するパンデミックの危険と隣り合わせであることに他ならない。

錦鯉を飼育するのはペットとして、親しい友、家族の一員として付き合うことであるから、.工場で食用の魚類を生産することとは違う。水が透明だから、PHなどの水質検査上の数値が正常だからといって錦鯉にとって適切な生活水とはいえない。エサの食いがいいから、泳ぎがいいから全てOKとはいえない。ペットとしての錦鯉と何年も何十年も付き合っていくことを忘れてはならない。
ノーベル賞を受賞したドイツの生物学者コンラート・ロレンツが著書の中で、理想的な飼育方法を彼のアクアリュームについての基本的な考え方として明快に述べている。
「掃除も何も必要ない手間隙のかからない健康な魚の飼育方法は、自然の状態に近づけてやればいい」というものだ。
なぜ飼育水を濾過するのか。単純言えば、錦鯉の排泄物が水を汚し、アンモニアなどの有害物質で水質を劣化させないように水と異物を分離処理することある。有害物質を取り除くことは必要なことだが、あまりにそうした分離処理能力が高すぎると錦鯉の健康を作るために必要な物質、水のためにも必要な有用バクテリアまで処理してしまうことになる。また、濾材の洗浄や底に溜まる汚れの清掃が必要になってくる。
ロレンツによれば、自然のバランスが取れていれば、私たち人間の排泄物が有効な有機肥料になるのと同様、錦鯉の糞などもバクテリアによって有害物質に変化する前に素早く分解され、分解された有機成分は水草や珪藻などの肥料となり消費されてしまい、透明度も飼育水を汚す原因は、ほとんど錦鯉の糞と残餌によるものだが、糞などは錦鯉の体内で一度消化されて排泄された窒素性有機物で、自然界でも水を浄化しているバクテリアの絶好の餌となる物質でもある。
また、糞や残餌を腐敗させたりすることで水質悪化、錦鯉に健康被害をもたらす腐敗菌や嫌気性バクテリアなども水の中には常に存在していると考えるべきであり、好気性のバクテリアや有用菌などと水の中のミクロの世界でバランスを保ちながら生きていることを忘れてはならない。
人間でも赤ん坊の面倒を見る時は様子を観察し、泣いたり、むずがったり何かの変化が起きれば、オムツを心配をしたり、授乳したり、その言葉ではない表現、サインを理解して健康な状態を保たせ育てている。錦鯉も同じである。泳ぐ様子、エサの食い、水の色、臭いなど、これが少しでもおかしければ何かのサインでもある。犬や猫などより長生きで、人間と同じくらい長生きする可能性のある錦鯉と長く、深く付き合っていくには彼らの自然環境の近い状態、人間に森や林や緑があるように水草や付着珪藻、浮遊珪藻など成育に適した環境を整えてやれば、有機肥料に分解された「ゴミ」も有用な「土壌」となって植物の生育に使われる。バランスの取れた環境が水槽で実現されると、水質も安定し、錦鯉の落ち着いて生活し、ストレス性の病気知らずで健康に成長し、一生の友ともなるのである。